坂の上の王様とお妃様 8
執事の服は、やはり喫茶店に似合わない。
「お久しぶりでございます、木崎様。」
黒崎さんは、静かに重みのある声で一礼をした。
「黒木様、お仕事中の事、重々存じておりますが、本日はどうしても伺わなければと思いまして。」
私にとったら、その言葉の意味の方が、すでに重すぎて耐えられないくらいだったが、ぎくしゃくしながら席を勧めた。とりあえず、自分でも戸惑っている。なにせ、王さんの話をしに黒崎さんが来たのは、間違いないのだから・・・。
私は、黒崎さんに席を勧めると、凜とした姿勢で黒崎さんは、席に着いた。机を挟んだ席に座った。
「えっと・・・今日は、どういう用件で?!」
私からそう聞いてみた。すると黒崎さんは、
「木崎様は、旦那様のお年がお気に召しませんか?」
と言ってきた。
「実は、旦那様は、あの後からずっとボーっとされて。つまり、今の姿は、生きた屍も同然。あなた様の事を本当にお慕い申しておられるのです。このままでは本当に旦那様のお体に触ります。もし、そうなった場合、我が国の・・・いえ、世界での損益は計り知れません。それに、今度の商談もこのままでは・・・」
・・・。
私は、馬鹿でしょうか?この人の日本語、意味不明です。
黒崎さんは、軽く白いハンカチで額をぬぐった。その表情は、真剣である。
「旦那様も、もう50歳。あまりお若くありません。性格的な面ではぶっきらぼうで。何時も、孤独な方でございます。でも、木崎様の前では、本当の自分をお見せできたように思えます。木崎様、どうかあの方の傍にいてあげてくっださりませんか?」
「私は、まだ考えています・・・でも、ここにいると、どうしていいのか分からなくって・・・」
私は、少し顔が赤くなっているような気がした。
「あの、黒崎さん。明日は、王さんの予定が・・・予定が。16時以降に予定が入っていますか?私、一生で一番大事な話を王さんにしたいんです。」
黒木さんは、大きくうなずいた。
「木崎様のためでしたら、可能でございましょう!」
と、にっこりと笑って答えた。
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