坂の上の王様とお妃様 6
部屋の中では、この屋敷の主がテーブルの前で、1人ぽつんと座っていた。それは、どこかのドラマに出てくるような風景だった。
「木崎、大丈夫か?」
やや、バツが悪そうに王さんは、声をかけてきた。私は、小さくうなずきながら、王さんの向かいの席に戻った。
さりげなく、黒崎さんが新しいティーカップで紅茶を入れてくれる。私は、その紅茶の入った真っ白なティーカップの縁を、しばらく見つめていた。その間、王さんの視線を、遺体ほど感じた。
そのとき、黒崎さんが、
「旦那様、所用がありますので、しばらく席を外させていただきます。」
そう言って、音もなく外へと出て行った。
私は、小さなため息をつくと、勢いよく王さんの方を見つめた。
「あの、先ほどの話ですが・・・」
私は大きく深呼吸をした。
「わたし、王さんのお気持ちは、よく分かりました。でも、わたし、正直いって悩んでいるんです。」
「で?」
「えっと。だから、私は、頭も良くないし、王さんみたいにセレブでもないし。それに・・・」
「それに?」
王さんは優しく問い返してきた。
「それに、出会ってまだ一月ですし・・・」
私は、自分に言い聞かせながらこういった。
「だから、私に、王さんの事を考える時間をください」
王さんは、私をじっと見つめていた。元々、端正な顔立ちの王さんは、50歳といえ、10歳は若く見える。こちらを見つめる瞳は、とても情熱的で魅力的に見えた。
王さんは、いつもこんな表情で私を見ていたんだ。以前、付き合っていた人には、こんな風に見つめる人はいなかった。王さんは、確かに魅力的な男性だ・・・
多分、私がもう少し大人だったら。もう少し王さんと早く出会えていたら。私がもう少し自分に自信があったら・・・
私は、そんなことがグルグル回っていた。でも、もしも王さんと付き合うなんて事があったら、傍目から見たら『不釣り合い』と、映るかもしれない・・・
『私、それが一番怖いんだ・・・』
それは王さんを一人の男性として認識した瞬間。
私は、思わず、王さんの視線から目を離した。
「分かった、木崎がそう言うなら・・・」
王さんは優しく、そう言ってくれた。
私は、ゆっくりと席を立つと、
「あの、今日は、これで帰ります。ごちそうさまでした・・・」
私は、一礼すると足早に部屋の外へと出て行った。
0コメント