坂の上の王様とお妃様 5
私は、化粧室に通された。思った通り、広くて立派な内装である。
私は、どのぐらい、立っていただろうか・・・化粧室の鏡に向き合っていた。そこにいたのは、灰色のスーツは・・・
本当に王さんは、どうしてこうも私の日常を脅かしてくるのか・・・
私は、豪華な化粧室の中で、ため息をついた。そして、愚痴をこぼす。
「本当に王さんは、そうしてこうも私を振回すんだ・・・」
鏡に映る私は、美女でもなくて。なのに、灰色の服を着たシンデレラ・・・
「私、そうすればいいんだろう・・・」
似つかわしくない、広い化粧室。そこにあるのは、まるで白雪姫に出てくる大きな鏡。
私は、ふとつぶやいた。
「鏡よ鏡、鏡さん。世界で一番この屋敷に似合わないのはだあれ?」
鏡は何も返事をし手くれない。
そんな時、私を急かすようにドアのノックの音がした。
わたしは、恐る恐る、顔をドアの隙間からのぞかせた。
そこに立っていたのは、黒崎さんだった。
「ご気分は、いかがでございますか?失礼ですが、遅かったので旦那様より様子を見てくるようのと・・・」
黒崎さんは、やや神妙な声でそう私に告げた。そう言った言葉は、本当に私の事を心配してくれている様であった。私は、少しだけ化粧室の扉をもう少し開けた。
「いえ、あの・・・元気です。」
私がそう言うと、黒崎さんは、ホッとした様子であった。そして、私は言葉を選びながら、黒崎さんに質問をした。
「黒崎さん、王さんは・・・私をからかっているんじゃないんですか?」
黒崎さんは首を振った。
「いいえ、真剣だと思われます。」
私は、ため息をついた。
「あの、私、まだ王さんとお会いして、一月しかたっていません。それに王さんは、実業家ですし。それにお年だって・・・」
私は、黒崎さんについ話してしまった。私と同じくらいの年でも、黒崎さんは、どこか話しやすい雰囲気がある。私は、さらに話をしようとすると、
「お静かに・・・」
と、私の言葉を遮った。
「木崎様は、旦那様がお嫌いですか?」
「いや、好きとか嫌いとかではなくって・・・」
正直、自分の気落ちが分からないのだ。
「迷っておられるのですか?」
・・・それは・・・
倉崎さんの言葉に、私は静かにうなずいた。
「さようでございましたか。旦那様は、嘘はつかれません。ましてや、仕事を割いてまでお一人の方をご自宅へお招きになるなんて、私がお勤めしてからというもの、一度もございませんでした。木崎様は、旦那様にとってそういった特別な方だと思いますが。」
黒崎さんは、そう言い終わると、私を元の部屋へと誘った。私も、どこか少しだけ気持ちが和らいだような気がして、その後に続いた。
長い廊下を進み、しばしの沈黙の後、王さんが待つ部屋の前まで戻ってきた。
私は、思わず小声で黒崎さんに話しかけた。
「あの・・・少し考えてみる事はありですか?」
黒崎さんはにこりと笑うと、
「ありなのではございませんか? 木崎様がよろしいのであれば。」
私はふと頭の中で『ああ、この人、私を否定しないんだ・・・だから、話せるんだ』そう思うと急に気が少し楽になった。
黒崎さんは、軽やかにドアをノックして、王さんが待つ部屋の扉を開けた。
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