丘の上の王様とお妃様の物語 プロローグ
私は、木崎珠子。
別に何の特技もなければ、お金持ちの家に生まれたわけでもない、ごくごく平凡な35歳。
大学を卒業した後は、しばらく、大手の企業に就職していたけれど、毎日同じことの繰り返しと、家との往復生活。彼氏もいたけれど、二股をかけられていた時には、自然消滅状態。友達にも『馬鹿じゃないの!そんことだから、男が逃げちゃんだよ』って、逆に私がおこらレル始末・・・
でっも、女盛りは短いもんで。三十路じゃ軽くすぎ、男性との縁が遠くなって。今では、俗に言う『売れ残り』ってやつ。
「いい加減、結婚でもしたらどうなの?」
な~んて言ってた、両親も、去年交通事故でいっぺんに他界して・・・お葬式とか手続きとか・・・一人娘ので、親戚も全く皆無な私が、一人で全部手配して。バタバタと過ごして、気がついたら、両親の位牌がぽつんと残されただけだったんだよね。
あと、両親が残してくれた物といえば、二人が経営していた喫茶店ぐらいで。丁度、仕事とかいろいろあって、いい潮時かなと。それで、仕事を辞めて、喫茶店を引き継いだのだ。
喫茶店は『坂の上茶屋』とういう、どこにでもある様な小さな店。洒落た感じもない、ごくごく普通の昭和の香りのする店・・・
中学の時から両親の手伝いをしていたから、店に出すコーヒーや、料理はなんとか作れるから、私一人ぐらいが生きていくル収入は得ることができる。
客層は、近所のおじさんやおばさんたちや、同級生とか・・・まあ、今までの生活も上司やお客さんにお茶を出していたし。さほど変りはない。
カラ~ン・・・
「タマちゃん、いつものやつね」
14時頃、父の知り合いだった近藤のおじさんが、相変わらすの様子でドアを開けて入ってきた。片手をあげ、挨拶する近藤のおじさんは、いつもこの時間にやってきて、一番奥のボックス席に座り込む。
私は、カウンター越しに「いらっしゃい」と、挨拶をした。
そして、いつものアメリカンをコーヒーカップに注ぎ込むと、おしぼりとお冷やをお盆に乗せて持って行く。
「お待たせしました」
近藤のおじさんの机に、一式をくと、おじさんは、
「サンキュウ~」
と、言って、アメリカンの香りを楽しんでから、一口飲むと、唐突におじさんは話しかけてきた。
「タマちゃん、隣の空き家があるだろう?あの、すごく豪華な家」
「ありますけど、それがどうかしたの?」
隣の家・・・私は笑顔で対応した物の、正直あまり関心が無かった。近藤のおじさんは、そんなことは関係なく、話してくる。
「いやな、前々から、リホームはしていたらしんだがな。なんでもよ、隣の空き家に今度すんげ~金持ちが引っ越してくるって話だぜ。帝国財閥の御曹司とかなんとか・・・まあ、その人が来るって話で、町内は話題になっているんだよ。」
「帝国財団って、日本でも有数の財閥で、私が勤めていた会社も、そのっ子会社だったんですよね。たしか・・・会長さんの顔なら、何度か雑誌で見たことありますけど。かっこよかったですよ。」
「なあ、タマちゃん。もしかしたら、その御曹司かなんだか知らないが、その人が、ここの喫茶店に来たりしてな。玉の輿・・・な~んて事があるかもしれないぞ!」
近藤のおじさんは、ちょっと興奮しながら話していたが、冗談ではない!私は、真面目におじさんの顔をのぞき込んだ。
「あのね、おじさん。分かってないわね。そういう雲の上の人って言うのはね、こんなところには来ないし。第一、近所付き合いなんてしないものよ。だいたい、おじさんが夢見る夢子になってどうするのよ。」
ぽかんとした顔をしていた近藤のおじさんも、
「そりゃそうだ!」
と、笑いだした。
それに、隣の空き家といえば、すごく身近に感じるが、その大きさとなるや、この町で一番の大きさとなるに違いないほどの立派な物だった。それを見るだけでも、格の違いがすぐに分かる物だ。
それに、大概の大物はSPのような取り巻きがいて、こんなちっぽけな喫茶店委なんて、こないのもだ。もし来たとしても、ゴタゴタに巻き込まれるのは、まっぴらごめんだ。
「全く、タマちゃんは、オヤジさんたちとは違って、現実はだな~」
近藤のおじさんは、コーヒーカップを飲み干した。
その数日後、何時もの様に14時頃に、近藤のおじさんがコーヒーを飲みに何時もの場所へやってきて、何時ものように15時過ぎに帰って行って日のこと。
「今日はお客さんも少ないし、ちょっと早めにお店でも閉めようかな・・・」と、余裕な私は、この後、遭遇するのである。まさかの出来事に。
丁度、夕日が店の窓から差し込んできて、まどろんでいるとき。カランッと、ドアが開く音がした。
「いらっしゃいませ・・・」
私が声をかけると、そこに立っていたのは、一人の男性であった。この辺では見かけない風貌で、服も上等の物だとみればすぐに分かる。
「店はやっている?」
と、堂々と声をかけてきた。
「はいどうぞ・・・」
私はぽかんとしながら、客を席に薦めた。
男性は、背が高く、顔も端正だ。でも、どこかで見たことがある様な・・・
男性は、無造作にいすに座ると、メニューを見ている。
「おきまりでしょうか?」
少し立ってから、私は声をかけると、
「ここのお勧めは?」
と、何時もの常連さんとは違うコメントである。私は、メニューの裏側を指さし、
「こちらのケーキセットでしたら、お飲み物とセットになってお得ですよ。」
と、説明をする。
そして少しの沈黙・・・
男性は、2~3分の沈黙の後、こう言ってきた。
「アフタヌンティーは、ないのか?」
私が固まってしまったのは、言うまでもない。
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