父の日に

先日、父の日に。私たち子供が家族旅行もかねて、64歳になる父親を水族館に連れて行った。

それぞれの家族を引き連れての、総勢10人からなるに帰りツアーだ。

昔、仕事をバリバリこなしていた頃の父親だったから、たぶんこんなことに参加しないだろうとたかをくくっていたが、父親は一つ返事で快諾したからだ。正直、こちらの方が、驚いたくらいだった。

我が家は、子供の頃は、母がその分いろんなところに連れてきてくれたものだったが、その母も今はいない。

私たち兄妹は、水族館に到着すると、それぞれの子供たちを手際よく水族館へ誘導押していった。父の顔を見ると、昔の厳しい顔ではなく、どこか朗らかな顔をしていた。

昔だったら、私たち子供がちょっとでもだだをこねると、すぐ怒っていた父なのに・・・

水族館の中に入ると、いきなり巨大な水槽が私たちを迎えてくれた。

そういえば父は、水産関係の仕事に詳しくって。そういえば、昔、一度だけ。父と水族館に来たことがあった。そのときに、「この魚の値段は・・・」とか、「これは食べると美味いんだ・・・」とか、夢のない話を聞いた覚えがある。そのとき、子供心に、何かさみしいものを感じたものだった・・・

「お姉ちゃん、ほら見て!」

妹の声で、私ははっとした。

目の前を大きなエイが、優雅に泳いでゆく。

父は、孫に「大きいな~」「びっくりしただろう?!」と話しかけている。

「おとうさん、うれしそうだね。」

妹がふと、そういった。

私も、「うん」と返事をする。

昔見た父の顔は、こんなにうれしそうな顔ではなかった。いつも、仕事のことばかり考えていて、子供たちの前でも、いつも頭にあるのは仕事のことばかりだっのだろう。

兄が言った。

「子供3人を育てるって、大変だもんな。」

と、ぼそっと言った。

私は、子供一人しか育てていなかったが、確かにそれでも大変だ。なんだか、孫と戯れている父を見ると、心のしこりがとれていくような・・・変にうれしい気分になった。

すると、妹が、

「お姉ちゃんが、一番お父さんに似ているよね・・・」

ここに来る前に言われたら、私は怒ったろうけれど・・・

「そうだね。似ているかも」

私は、素直にそういった。

妹はニヤニヤと笑っていた。


水族館の中を一回りして、出口付近でお土産物を選んでいたとき。

父が私たちを呼んだ。

「何?」

と、聞くと、

「今日はありがとうな。40年間、仕事してきて、良かったよ。」

と、短く言ってきた。

私たちは、父がそんな言葉を言うのになれていなかったので、ちょっと戸惑ったが、「うん」と、3人で、うなずいた。

こんな日が来るなんて・・・

不思議な感覚がしたが、それはうれしさの何物でもなかった。

こうして、短いけれど、父の日の旅行は無事に終わった。


はぜみ's ストーリーズ

こんにちわ、ハゼミです。 このHPは、私はゼミの書く、短編小説や、長編小説が載っているものです。 お暇なときやいつもの世界から離れたい時など、隠れ家的に来てくださると嬉しいです。

0コメント

  • 1000 / 1000