春の日に

昔、私は何も考えないで母の口紅を真似して塗ってみたことがあった。

なんだか大人になったような気がしたのと同時に、赤いルージュが、どうしても似合わなくって・・・

なんだか違和感を抱いたことがあった。

大人になっても、真っ赤なルーシュを唇に塗るときは、どこか違和感がある。だから、少し、だけしか付けないように心がけている。

子供の頃の鏡に映った自分と、今もにらめっ子をしているのだ。

他にも、そんなことがいくつかある。

母の着物姿を思い出すと、とくにそう思うのかもしれない。

入学式の日に、母が着物を着てきてくれたことがあった。

春の桜の中、それは淡いピンクの着物で、とても若い母には似合っていた。他のお母さんたちに比べて、一番綺麗だった。私もそんな、着物が来てみたいと思ったことがあった。

しかし、その思いは、成人式の着物選びで、もろくも消え去ってしまった。

自分には、ピンクが似合わなかったのだ。ショックと、どうしようもない動揺が、私を襲った。私は結局、紫色の着物にすることに決めた。

他にも、春の日になると、母とのことが沢山こみ上げてくる。でも、どれも母と自分を比較していることが多い気がする。

心が大らかで、やりくり上手な母と、心が小ちゃくって、何をやっても上手くいかない私・・・

どんなに頑張っても、母になれるはずもないのに・・・

そんなことを、この春の日についつい考えてしまうのだ。

私は、いつまでたっても、母の子でいたい。

そんな、思いが考えさせてしまったいるのかもしれない。

幼い頃に母に抱かれたこと。母に叱られたこと。母に慰められたこと・・・

春の日に、ついつい思い出してしまうのは、なぜなのか・・・

私にも分からないけれど、でも、そうやって、母のいない現実を乗り越えようとしているのかもしれない。

寒い冬に行ってしまった冬ではなくって、もうすでにいない春の日に・・・



はぜみ's ストーリーズ

こんにちわ、ハゼミです。 このHPは、私はゼミの書く、短編小説や、長編小説が載っているものです。 お暇なときやいつもの世界から離れたい時など、隠れ家的に来てくださると嬉しいです。

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