一美とマー君
一美は、生まれつき瞳が青い。
母がどこかの異国の人だったから。顔つきは父に似ていたが、髪の毛だって母に似た亜麻色の髪だった。
一美が母に似たのは、もう一つある。
それは、心臓が生まれつき弱いこと。
だから、生まれてこの方、走ったことはない。近所の子供たちとも遊んだことがない。
遊ぶ時はいつも、ぬいぐるみのマー君と一緒だった。一美は、マー君が大好きで、お気に入りだった。
二人はいつも一緒で、お風呂以外は、どこでも一緒だった。
そう、マー君がいないと眠れないくらい・・・
だから、マー君は、本当はピンク色をしていたけれど、薄汚れていた。それでも、一美は、マー君が大好きだった。
一美は、マー君にだけ、内緒のお願い事を話していた。毎晩、弟にでも話しかけるように小さな声で。
「マー君、絶対ナイショだよ。」
そう言って、一美はこけた頬にエクボを作って笑った。
マー君は、無表情な黒いボタンの目で、まるで一美を見ているように見えた。
そんな一美は、最近、体が重くって。胸が急に苦しくなることがあった。その度にお医者様に見てもらうのだが、最近は、ほぼ毎日のようになっていた。
「あまり無理をしないんだよ。お大事に・・・」
お医者様は、いつも一美に切ない笑顔をする。そしてお決まりの言葉を残して帰っていくのだった。
一美は、マー君に、
「一美、お医者様って嫌い。」
と、小さく話かけた。
マー君は、やはり無機質な黒いボタンの目で一美を見ているだけだったけど、一美の話をいつも聞いてくれるた。
だから、一美は、お医者さんに診てもらったあとは、マー君をギュッと抱きしめた。
そんなある日のこと。
苦しくって苦しくって、眠れなかった夜が過ぎた朝のこと。
義母たちが、一美にレースの沢山付いた白い服を着せてくれたのだけれど、一美は、その服が嫌いだった。
だから、マー君に、
「ねえ、どう思う?私にこんな服似合わないでしょう?」
と、一美はきいてみた。
すると、一美は驚いた。マー君の体は、ふわふわで。体の色も、もとの鮮やかなピンク色になっていた。そして、一美は気がついた。マー君の黒いボタンの目が、自分と同じ青い目になっていたのだ。
「マー君と同じだから、一美も綺麗な服を着てもいいよ!」
そして、強く強く・・・
マー君を抱きしめた。
・・・どこにいても、マー君と一緒だよ・・・
その言葉通り、一美とマー君は、いつも一緒にいた。一美が旅立つ時も・・・
「一美・・・さあ、大好きな、くまのぬいぐるみだよ・・・」
お父さんは、お義母さんと一緒に一美の胸にボロボロになった、くまのぬいぐるみを添わせた。
一美は、小さな小さな柩に、マー君と一緒に収められた。
でも、その顔は、心なしか微笑んでいるように、お父さんには見えた。
こうして、一美とマー君はいつだって、いつまでも一緒になった。
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