変わり者
扇風機を回しながら、彼女は部屋の中で、横になっていた。
暑くって動くきにもなれなかったからだが、正直、何もすることがなかったからだ。
ただただ、仰向けになって目をつぶる。
そうしていれば、時間だけは確実に過ぎていく。
暑いけど動きさえしなければ、汗も出ない。
一石二鳥だった。
彼女は、こういう時は、良く空想をする。
彼女の特技は、いいにつけ悪いにつけ、頭の中に思い描けるのだ。
それだけは、ある意味、天才的だ。
そして、それを見ることが出来るのは、彼女だけの特権だった。
まず、座布団を枕にして、フローリングの床に横になり、目をつぶる。
そうすると、少しだけまぶたから明かりが入ってくるのだろう。何やら、黒と紫のグルグルした物が見えてくる。しばらくその状態が落ち着くと、今度はとりとめもない話がいきなり始まってくるのだ。
それをいくつもいくつも見ては、時間をつぶす。
時折、フローリングの床が暖かくなってくると、少しずつ体の位置を変えるのが、大事な事であった。暑くなってくると、考え事が浮かばなくなるから。
そうして、2~3時間は、無言で過ごすことが出来た。
彼女はそういう意味では、変わっているのかもしれない。
でも、そうして過ごすことが彼女は何より好きだった。
だから、昼間はもちろん夜もテレビをつけない。
つけるのは、夫が居るときだけ。
彼女は変わっていたが、夫はいた。
二人は、なぜか正反対だったが、結婚した。
よほどのことがない限り、喧嘩もしたことがなかった。
夫は、いい人で、彼女の事を良く理解していたから。
ただ一つ、テレビに関しては彼女と夫は、合わなかった。
夫はテレビを見ながら寝るのが大好きで、気がつくと彼女がテレビを消す。すると、消したと同時に、夫が目を覚まして、
「なんで、テレビを消すんだ!」
と、言ってまたテレビをつける。
それの繰り返しだった。
夫もそういう意味では、変わっているのかもしれない。
二人は、会話がなくても、そうやって一緒にいることが多かった。
でも、一緒にいることが、二人には大切な時間だった。
二人の変わったところと言えば、もう一つ。ドライブに出かけることだった。
毎週、おんなじコースを通り、同じ店で食事をする。
会話という会話は、ほとんどなく、それでも二人はドライブをするのだ。
二人ともそういう意味では、変わっているのかもしれない。
変わり者同士だから、上手くいっているのだろう・・・
周りのものも、そう考えていたから、別に何も言わなかった。
ある、変わり者の夫婦の話である。
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