アレキサンドライト

 私がこの宝石に出会ったのは、私が小学校6年生の時。祖母の形見分けの時だった。

 そのれは、青みがかった緑色で、数個のダイヤの先についていたペンダントと、指輪だった。今までに見たことのない、不思議な色・・・私は一目でその宝石が欲しくてたまらなくなった。

 それに・・・叔母達は、皆、ダイヤやエメラルドやサファイヤにルビーと言った有名な宝石を手にしていて、その宝石には、誰も見向きもしなかった。

 だから、孫の中で一人だけ女の子だった私が、残ったそのペンダントと指輪の宝石を皆の許可をもらって、祖母の形見として分けてもらったのだ。

 

 でも、その宝石は、見れば見るほど、不思議な石だった。

 普段は青みがかった青色の石なのに、ろうそくや電球の明かりの下では、赤紫のような色に鮮やかに変わった。

 父母もそんな小さな変化は全く気にしなかったし、私も日頃はジュエルボックスの中にそれらをしまっていたので、時々その宝石を見ては心がときめいた。そして、勇気も沢山もらった。そう、特別な時に。

 例えば、私は、中学・高校・大学受験の時は、お守りとしてその宝石を制服のポケットにしまってテストを受けたもだった。そうすると、不思議に心が落ち着いて。そのお陰か、私は、いつも一発合格で志望校にいけた。

 会社の面接の時も、同様だった。その宝石は、私にとってお守りみたいな・・・そんな大切なものだった。

 それから、ジュエリーショップで、買い物に行ったときは、その石を探したものだった。でも、沢山ある宝石の中に、この石と同じものは、なかなか見つからなかった。質屋さんにいって聞いてみても、宝石の値段はものすごく安く、土台になっているプラチナの方が値がつくくらいだった。私は、だんだん、この石は、宝石ではなくガラスではないかと思うようになっていった。

 そして、仕事を始めて3年のある日。

 休日にふと、初めて入ったジュエリーショップで、私は、衝撃を受けた。

 そこにあったのは、私の持っている石とよく似た宝石があったのだ。私は、思わず笑みを浮かべてしまた。私の持っている宝石の名前がやっと分るんだと。

 すると、近くにいた男性店員が、声をかけてきた。

 「お客様、気になるお石がございましたでしょうか?」

 店員は、清潔感のある、優しい声だった。

 「ええ・・・あの、この石なんですけれど・・・」

 私が、ガラスケース越しに指をさすと、店員は微笑んだ。

 「アレキサンドライトでございますか?」

 ・・・アレキサンドライト?

 初めて聞く宝石の名前だった。

 「こちらをお出ししましょうか?」

 店員が鍵でケースからその宝石を出そうとすると、私は、はっとした。

 「いえ、あの・・・別に買うわけではなくって・・・ただ、ずっと探していたんです。この石の名前を・・・」

 はにかむように私が言うと、店員さんは、不思議そうに私を見て、

 「よろしかったら、奥のお席でお話を承らせていただけませんか?」

 と、私を奥の方にある席へと誘った。私も、素直に店員さんの後を追って、席に着いた。

 「お茶をどうぞ」

 店員さんは、優しくお茶を私に勧めてくれると、

 「どうして、アレキサンドライトを探されていたのですか?」

 いきなり本題に入ってきた。

 私は、ポケットからネックレスと、指輪を取り出した。そして、祖母の形見である事。でも、この石の名前が分らずに、色々なジュエリーショップに行ったこと。そして、今日その名前を初めて知ったことを店員さんに話した。

 店員さんは、なるほど・・・と、その都度うなずいてくれた。

 「お客様のお祖母様は、よほど目の肥えた方だったんでしょうね。このアレキサンドライトは、ここ数年で大分有名にはなりましたが、まだ一部の方しか知っていない稀石なんですよ。」

 そう言うと、店員さんは、マジマジと石を見つめた。

 「色も申し分ないですし、とてもいい品物かと思います。もともとは、クリソベリルという石に丁度いい配合で青と赤の色が出るようになっている珍しい石で、ロシアの皇太子の誕生日に見つかったことで、アレキサンドライトと呼ばれるようになったんです。」

 私は、石の説明を聞いているうちに、なんだか自分が褒められているような気分になって、とってもうれしくなってきた。

 すると、店員さんは、

 「もしよろしければ、クリーニングいたしましょう。」

 と言ってきた。

 「で、でも。私何かを買うつもりはないんです・・・」

 慌てて、そう言うと、

 「ご安心を、サービスでさせていただきますから。このような素晴らしい品を見せてもらったんです。宝石屋としては、元の綺麗な色合いを出してあげるのも仕事のうちなんです。」

 店員は、そう言うと、トレーに私の宝石達を乗せて、奥の方へと消えていった。

 私は、正直、うれしさ半分、恥ずかしさ半分で席に座っていたが、しばらくすると、店員はすぐに戻ってきた。トレーに乗っていた私の宝石達は・・・

 「これが、本当の色・・・」

 私は、呆然としてしまった。店内が暖かい暖色の照明を使っているせいもあってだろうか・・・その宝石達は、赤紫と言うより、一瞬、ルビーを思わせる魅惑的な色に変貌していた。

 「本当に素晴らしいお石です。大切になさってください。」

 店員さんは、ネックレスを私の胸元に飾り、そして指輪をはめるように勧めた。私は、その美しい輝きに感動してしまった。

 「アレキサンドライト・・・私、一生大切にします。」

 そう言うと、席をたった。

 店員さんも、笑顔でそんな私を出口まで送ってくれた。

 

 祖母の形見のアレキサンドライト・・・名前がわかったので、私はその日家に帰るとパソコンで色々調べていった。すると、この石は、店員さんが言っていたとおり、稀石で、下手なダイヤモンドよりも高価である事。人工的に作られたアレキサンドライトもあるが、つい最近のことなので、私の持っているものは、天然石であること。そして、私の誕生月である6月の石である事・・・

 今まで知らなかった事が、沢山分った。

 そして、やっぱり私にとって、この宝石はお守りだったんだ。私の事をずっとっまもってきてくれたんだ・・・と、改めて祖母に想いをはせた。

 「ありがとう、おばあちゃん・・・」

 私は、大切にネックレスと指輪をジュエリーケースにしまうと、なんとも言えない暖かな気持ちになった。


 あれから4年。

 私は、時々自分のご褒美で、宝石を買うようになった。そして、どの宝石も自分なりに愛着を持つようになった。その後、私にも彼が出来、婚約指輪をもらって、来月には私は結婚する事となった。

 それでも、一番の宝物は、アレキサンドライトだけれど・・・

 でも、あのとき行ったジュエリーショップは、なぜか未だに見つからない。あのときの店員さんに、会いたいのに・・・あって、お礼が言いたいのに。

 宝石の汚れと一緒に、私の疑問を解いてくれてありがとうって・・・

 でも、見つからなくても、あのときの店員さんの優しさが今でも心の中に残っている。私もそんな優しい人間には、なれないけれど、アレキサンドライトを見るたびに、その思いが甦ってくる。

 あの怪しい輝きに導かれて・・・

 

 

 

 

 

はぜみ's ストーリーズ

こんにちわ、ハゼミです。 このHPは、私はゼミの書く、短編小説や、長編小説が載っているものです。 お暇なときやいつもの世界から離れたい時など、隠れ家的に来てくださると嬉しいです。

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